日別アーカイブ: 2013年10月29日

煮凝り。

前回は「焚き合わせ」を紹介させていただきましたので、同じく「焚き合わせ」繋がりで、今回はこのお料理の写真をアップしました。

秋茄子と穴子、車海老の煮凝り(にこごり)です。中身は煮穴子、車海老、焼き茄子、小芋、紅葉を模った冬瓜、オクラです。冬瓜と小口に切ったオクラは、まだ色付かない紅葉の葉に見立てつつも、お料理全体ではこれから深まっていく「秋の実り」をイメージしました。

胡麻の羽二重を鞍掛けにし、イクラ針セロリを天盛りにしています。

この「煮凝り(にこごり)」は冷たいお料理ですから、たいがいは「夏のお料理」です。しかし、今年は夏のような気候が長く続き、ついこの前まで、暦の上では「秋」なのに「行き交う人たちはみな夏服」という状態でしたので、そのような日にはあえてこのようなお料理をお出ししました。

器はガラスの蓋物ですが、葡萄が描かれています。

夏への名残りと、深まっていく秋との端境期。そんなお料理です。

 

 

「煮凝り」について・・・

煮凝りとは本来、魚などの煮汁を冷やして固まらせた食べ物です。ですが、私は上で紹介したようなお料理の場合、魚の煮汁をさらに出汁でのばし程よい味に調味した後にゼラチンで補います。ですから「ゼリー寄せ」と呼ぶほうが適切なのかもしれませんが、「煮凝り」という言葉が指す意味を「魚などの持つゼラチン質によって煮汁などの液体を凝固させた食べ物」と考えれば、スイーツのゼリーだって「煮凝り」と呼んでもおかしくないと思います。

屁理屈のように聞こえるかも知れませんが、時代と共にカタカナで表記するような言葉が増え、そのカタカナの単語を一般的に使うようになる前にどんな日本語で表現していたかと、ふと考えると分からない(出てこない)時が多々あります。言葉が時代と共に変化するのは当然のことなのでそれに関して意を唱えるつもりはないのですが、料理名はやはり「ゼリー」ではなく「煮凝り」っていう本来の日本語にこだわりたいと思っています。kao06.gif

 

「出汁」はお母さん・・・

日本料理は出汁が決めて!なんて言葉をコマーシャルなどで聞いたことがありますが、まさにその通りだと思います。「お吸い物」なんかは勿論ですが、煮炊き物もどれだけ最高の素材を使っても「出汁」が不味いと台無しです。素材が子どもだとすると出汁はお母さんです。子ども(素材)を優しく包み込み、その良いところを最大限に伸ばす。美味しい「出汁」にはそんな力があり、また逆にそんな「出汁」が本当に美味しい「出汁」だと思います。

先ほどの「煮凝り」のお料理も中の具材を出汁が優しく包み込み、それぞれの持ち味を引き出しつつもお互いがぶつかり合うことなく口の中で様々な表情を見せてくれます。色々な子どもたちの個性をお母さんが優しく包み込み、みんな笑顔で口の中で幸せそうな表情を浮かべるのです。

「 自画自賛もたいがいにしろ!! 」とお叱りを受けるかも知れませんが、自分で作っておきながらその美味しさに感動しました。kao13.gifkira01.gif

決め手は「出汁」(お母さん)と作り手の私(お父さん)の絶妙な味付けってところでしょうか?kao07.gifheart02.gif

「 ええかげんにせえっ!!」と叱られる前に、今日はこの辺で失礼いたします・・・

 

 

 

 

 

京かぶら。

焚き合わせ 京蕪の煮物です。

蕪(かぶら)という素材もこの時期の定番ですが、絹のようにきめ細やかなその上品な口ざわりと、ほのかな甘味、それに特有の香りが特徴です。(色白で上品な素材ですから、私は「かぶら美人」と呼んでいますが、)それを損なわないような調理に細心の注意を払います。ただ、その点に気をつけて大切に調理してあげれば様々な形に変化して色々な料理で楽しむことができる大変魅力的なお野菜です。

蕪蒸しがその代表ですが、お漬物も美味しいですね。

(わが家の夕食ではサラダとしても活躍してくれています。)

このように幅広い料理で活躍してくれる食材は料理人にとっては心強い助っ人です。「今度は蕪ちゃんにどのように活躍してもらおうか・・・」と思いながら献立を考えるとわくわくします。

話は変わりますが、信州で有名な野沢菜(のざわな)は、もとをただせば京都の蕪(かぶら)だそうです。たしか江戸時代だったと思うのですが、京都の蕪を信州の方でも栽培したいと苗を取り寄せて試みたところ、気候などの違いから蕪(カブ)の部分は育たず、茎と葉がよく育ち、それが今の野沢菜の元になったそうです。

お野菜ひとつとっても様々なルーツがあり、調べてみると面白いでしょうね。興味のある方は是非調べてみて下さい。

 

さて、写真のお料理は、菊を見立てた蕪の中に蟹(かに)の身を射込み、蕪を炊いた煮汁を吉野餡にして山葵を添えています。

出汁の香りと旨味の中に、蕪の香りと旨味が混ざり合い、お口の中に広がります。

手前は鱧(はも)で松茸(まつたけ)を巻いて炊いたものです。

・・・菊の香りと共にお楽しみ下さい。